日本製品の英名あれこれ

トランスクリエーション(マーケティングやブランディングの分野における、創造的な現地化)は簡単な事ではありません。その中でも難しいのは、そもそもの名前を外国のマーケットでどのように変化させるか、ということだと思います。今回は、3つの日本ブランドを取り上げて、それらの名前が英国のマーケットでどのように変化したかについて書きます。

ヤクルト:ドイツ語か、日本語か・・・、えっ、エスペラント語?!

Flavoured Yakult from Singapore © Wikipedia/Dezzawong

シンガポールで売られているフレーバー付きヤクルト © Wikipedia/Dezzawong

乳酸菌ドリンクのヤクルトは、英国で2016年秋から広告キャンペーンが開始されました。コピーは「科学が詰まった小さなボトル(魔法じゃないよ)」。 「オリエンタル」なイメージをベースにミステリーやマジックをテーマとして、ニューエイジの「禅」がフィーチャーされた内容のTVのコマーシャルも放送されました。幻想的な雰囲気の中、長髪の僧侶と桜の木々が登場し、「ヤクルトは、神聖な山鹿の神秘的な涙から作られている」さらに「巨大な盆栽から抽出された魔法のエッセンス」 と、呪文を唱えるような声でナレーションが入ります。そこへ、レコードのスクラッチのノイズが入り、リアルな北部アクセントのセリフが続きます。「ちがうでしょ!日本人科学者たちが作ったんだよ!」と。

Mikado(ミカド):スティック菓子の創造性に富む解決法

Mikado Pick Up Sticks © Wikipedia/Heurtelions

ミカド・ピックアップスティック(ゲーム) © Wikipedia/Heurtelions

「Mikado(ミカド)」は、日本のチョコレート・ビスケット菓子「ポッキー」のヨーロッパでの名前です。

唯一、英国全土のスーパーマーケットで取り扱われている日本のお菓子です。おそらく、このスティック菓子がヨーロッパでミカドと名付けられた背景には、 ヨーロッパで開発された「ミカド」という同じ名前の棒崩しゲームとポッキーの見た目が似ているという理由があり、さらにもう1つ、ポッキーが日本発祥のお菓子である、という理由があると考えられます(つまり、“ミカド”というのは“天皇”を表す古語であり、さらに、1885年に上演されたギルバード・アンド・サリヴァンという喜歌劇の名前でもあるのです)。

その他の理由としては、“ポッキー”という言葉の響きがPockmarked(ポックマーク:「あばた」という意味)を彷彿させ、あまり食欲をそそるようなものではない、というのもあったかもしれません。(ただし、他の英語圏である北アメリカでは、ポッキーはそのままの名前で販売されましたが)。ちなみに、“ポッキー”とうのは、日本語の擬音語である“ポキン(pokkin)”が由来です。それは、ポッキーを食べる時に出る音を表した言葉です。

奇妙なことは、英国においてミカドという名前やパッケージングが、そのマーケティング戦略と噛み合っていないように思われる点です。英国の「ミカド」パッケージは、ナンキ・プーやヤム・ヤムといった名前の(前述の)ギルバード・アンド・サリヴァンのハチャメチャなキャラクター名に象徴されるように、19世紀以降の日本を意識し、その時代を空想化し、茶化したような印象があります。現在のパッケージでは、ミカドという文字は東洋風の“チョプスイ”書体で描かれ、ハッキリした赤白の日本の国旗をあしらい、こうした時代錯誤ともとれるようなデザインが採用されています。しかし、英国(欧州)以外の国でのポッキーのパッケージは、お馴染みの赤を背景にしたゴールドの文字が採用されています。

一方で、ミカドのマーケティングには21世紀にしっかり合った戦略が採用されています。ソーシャルメディア戦略は若者層にターゲットを絞り、ヒップでユーモラスです。興味深いのは、見た目ですぐ日本的と分かる商品名やデザインを採用しておきながら、日本というワードは一切使用されていない点です。

ミカドのFacebookビデオでは、オフィスで働く個性豊かな従業員が、思い思いにミカドを楽しむ姿が描かれています。プロモーションビデオの中には、ベッドの上のカップルが思わせぶりに「ウサギ」のようにポッキーを楽しむ姿が描かれており、デイリーミラー(英メディア)がその演出に対して苦言を呈したというエピソードもあるくらいです!

ウォークマン:英国マーケットでは、一時期ストウアウェイとしても知られていた

Sony Walkman © Wikipedia/binarysequence

ソニーウォークマン © Wikipedia/binarysequence

1979年、ソニーは、革命的なポータブルカセットプレイヤーである「ウォークマン」を世に出しました。そのネーミングをインスパイアしたのは、すでに発売されていたポータブルテープレコーダーである「プレスマン」、そして、前年に公開された映画『スーパーマン』であるということです。

「ウォークマン」という名前からは、確かに、その製品がもたらす自由な感じや、可動性が伝わってきますが、ソニーは、国際マーケットでの展開に際し、最初「Japlish(ジャプリッシュ)」という名前も検討していたとのことです。結果的に、英国では1980年からウォークマンが発売になったのですが、発売当初の名前は「Stowaway(ストウアウェイ)」、そして米国を含むその他の地域では、「Soundabout(サウンダバウト)」でした。

上記のような名前での商品展開にも関わらず、ウォークマンという名前は当時既に世界的に広がっており、その名前が使われていました。こんな話があります、日本を訪れた外国人がお土産としてウォークマンを国にもって帰っていたのが原因だと思われますが、日本国外のソニーの従業員の子ども達が、ストウアウェイでもサウンダバウトでもなく、ウォークマンという名前を使っていることに当時の日本のソニーの役員が気付いたのです。

そのような事もあり、1981年にウォークマンIIが発売になった時、ストウアウェイ、サウンダバウトという名前は廃止され、全世界でウォークマンという名前が採用されました。

(実は、ソニーの当時の取締役社長であった盛田昭夫氏は、ウォークマンという名前をあまり良く思っていなかったらしいです、しかし世界的に名前を1つに統一した方が商標を登録したり、商品のプロモーション活動をしたりする際にコストがかからないという事実から、渋々納得したとのことです。)

その後ウォークマンは、4億台を売上げ、1986年にはオックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー(英英辞典)に記載されるまでになりました。ソニーは、ストウアウェイとサウンダバウトという特に問題のなかった名前を撤廃することで、“日本的なもの”を消費者から望まれる、最初の日本企業になったのです。ウォークマンという風変りな名前は、コンパクトでハイテクなこの商品の内容を実にうまく表しています。

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