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外国人杜氏フィリップ・ハーパー氏

ロンドンの大和日英基金では、「すごく変わった人」と紹介されていたフィリップ・ハーパー氏。だが、この「すごく変わった人」というのは、若干控えめな表現だといっていい。彼は、現在、日本で活躍する唯一の外国人杜氏、すなはち日本酒造りの名人なのだ。

会場を埋め尽くす人々を前に、ハーパー氏は、25年前、コーンウォールから英語教師として来日したこと、ふとしたきっかけで日本酒造りと出会い、それに「のめり込んで」いったことなどを語った。多大なる努力と苦労によって、同氏は京都にある木下酒造の杜氏にのぼり詰めたのだ。

フィリップ・ハーパー

ハーパー氏は、講演中、「日本酒の今昔」というトピックで 日本の酒造りの歴史を解かりやすく説明してくださった。内容は実に多彩であり、専門的かつ複雑なテーマで、酵素や、ヤマタノオロチ(日本酒にゆかりのある神話のひとつ)についても触れられていた。

講演の中で、特に興味深かったのは、日本酒醸造産業の将来に対し、同氏が比較的明るい展望を持っていたことだ。「既に最悪の状況は過ぎ、再び上を向きはじめています」とおっしゃっていた。

私自身がよく耳にするのは、「日本酒の質の向上と相反して、日本酒業界そのものは大きな問題の渦中にいる」という話だ。しかしながら、もしハーパー氏の意見が正しければ、10年以上に及ぶゆっくりとした日本酒売り上げの低下に、ついに歯止めがかかるかもしれない。

確かに日本の酒市場には、興味深く、新しい試みに満ちた日本酒が数多くあることには間違いがない。彼が、人々に味わってもらおうと、この日のために自身が杜氏を務める蔵から持ってきたという日本酒は、まさにそのような中に含まれる逸品だ。300年前の方法を用いて造られた酒「玉川タイムマシーン」は、一般的な日本酒とは見た目も味も一線を画している。

玉川タイムマシーン

ハーパー氏の講演は、日英交易400周年記念を祝うJapan400における様々なイベントのひとつとして開かれた。400年もの輸出入の歴史がありながら、イギリスにおける日本酒輸入量の少なさには、驚くばかりである。

ジャパン400

私の住むバースにおいても、明らかにその傾向は顕著である。最近、ある個人経営の酒屋で日本酒があるか尋ねた時には、「残念ながら、置いていません。でも、今月に入って、日本酒を探しにきた人は、あなたで2人目ですよ!」という答えが返ってきた。きっとあまり売れないのだろう。

しかし、その状況もロンドンでは、いくぶんかは良いらしい。イベントの来場者の中には、「日本酒ブーム」について話している人もいた。

そして日本食の方は、間違いなく好調。今年またイギリスに引っ越してくる前、十数年前に僕がイギリスに住んでいた頃は、巷では日本食といえばまだまだ、エキゾチックなエスニック料理という位置づけだった。それが今では、スーパーマーケットで寿司弁当が買えるし、ジェイミー・オリバーの最近の本「Money Saving Meals(節約ごはん)」の中に、お好み焼きのレシピがあるのも発見した。

日本酒が同じような大躍進を見せてくれたら、どんなに素晴らしいことだろう。ただ、「どうやってそれを実現するか」が、紛れもない大問題だ。

(ハーパー氏は、日本酒造りの名人かつ素晴らしい語り手であるばかりでなく、ものを書く方面でも大変素晴らしい) 同氏の日本酒についての著書は、大変おすすめである。

Insider’s Guide to Sake
Book Sake: A Connoisseur’s Guide